オランダの青年の勇気

 
今日からが勝負!明日こそ勝て!
失敗を恐れず、前へ、前へと進むことだ!

 
初夏の緑は、まばゆいばかりに鮮やかだ。爽やかな涼風が心地よく頬をなでる。
池田先生の周りに、いつのまにか座談の輪ができた。
1983年6月、古都アムステルダムの昼下がり、
夕方に予定されているルベルス首相との会見では
「どうすれば米ソの核軍縮は可能なのか」という困難な話題が控えていた。
先生はその前に、宿舎の庭で若いメンバーと共に
緑陰の語らいのひとときをもってくださったのだ。
「結婚の事で悩んでいるのですが・・・」「どうしても朝起きれないんですが・・・」。
メンバーからは、いかにも若者らしい悩みが率直に投げかけられた。
先生は一人一人の悩みに対して、慈しみに満ちた表情で丁寧に答えを返していかれた。
「私は失業中です。どうしたらいいんでしょうか?」と問うメンバーがいた。
゛オランダ病゛とも言われる大不況の時代で青年の失業問題も切実だった。
先生は即座に応えられた。
「今こそ本気になって題目をあげるのです!
 仕事が見つからないからといって、自身を卑下してはなりません!
 自分に自信をもつのです!」

命を揺さぶるような力強い声の響きを聞いて、私の脳裏には、16年前の激励が蘇った。
あの時私も、勤め先のホテルを辞めて失業したばかりだった。
パリで意気揚揚と活動に参加したはいいが、オランダに戻る列車に乗り遅れてしまった。
翌日、ホテルに出勤した私を待っていたのは
「即刻、日本に帰れ!」という総支配人の叱声だった。
私も若かった。「それなら辞めさせてもらいます」とホテルを去ってしまった。
それから一週間もたたないうちに、先生がオランダを訪問された。
肩を落す私を、先生は温かく励まして下さった。
「仕事はもちろん大切だ。
 ただ、1度ぐらい失敗したからといって、自分を卑下したり、自信をなくしたりしないことだ。
 失敗を恐れず、前へ、前へと進むことだ。
 明日こそ勝つんだ!絶対に勝つんだ!」

その瞬間、腹が決まった。「生涯オランダ広布に生き抜いていこう」と。
先生はその場で、オランダSGIの支部を結成し、私を男子部長に任命してくださった。
すべてを乗り越えて、オランダSGIの理事長を拝命したのは、
この83年の先生のオランダ訪問の折だった。
この時、失業の悩みを相談したメンバーは闘志をもって努力を続け、
今はアムステルダム市の重職に就いている。
一人の青年が、どれだけ偉大な使命をもっているか。
それは、その本人にだってわからないはずだ。
大切なのは、その未来を確信して可能性の大海原に漕ぎ出すことだ。
未知なる大海に漕ぎ出す勇気――これが海洋王国オランダの魂だ。
誰よりも青年を信じぬく先生の姿を思うと、伸びゆくオランダの青年たちのために、
一身を捧げようと意欲がみなぎってくる。(オランダSGI理事長 ショウゾウ・コテラ氏)
 
〜大百蓮華2月号 世界へ征く より〜