ドイツの平和の誓い

 
変革は「一人の人間「から始まる
 
集った一人一人の悩みはさまざまだった。仕事の悩み、家族の悩み、信仰の悩み――
池田先生は、その一人一人の声に、じっと耳を傾けてくださった。
池田先生は1981年5月、ソ連から西ドイツのフランクフルトに入られた。
ソ連滞在中は、チーホノフ首相はじめ国家的要人との会見が連日行われた。
ドイツでは、デルボラフ博士やカーン博士ら、旧知の学者たちとの会談が予定されているのみで、
先生は残された全ての時間をメンバーへの激励に充ててくださった。
風薫る緑の園で、生命触発の懇談会が幾度も開かれた。
「世界の指導者の先生が・・・」と思うと、ありがたさで胸がいっぱいになった。
このころ冷戦の危機は頂点に達していた。
ソ連アフガニスタン侵攻、レーガン政権の強硬姿勢。
「幸福に生きたい!平和に生きたい!」という願いは、どんな国の人々でも共通なはずなのに、
実現の道は、体制やイデオロギーの壁に阻まれていた。
東西に分断されたドイツの人々にとって、その苦悩は切実だった。
先生は、皆の思いに応え、諄々と語られた。
「ご存知の通り、資本主義も行き詰まっています。
 社会主義も行き詰まっています。
 しかし、私たちは、それぞれの体制を云々していくのではない。
 いかなる団体、いかなる体制の違う社会であろうとも、
 そこに厳然と存在する人間が、変革の原点なのです。
 その一人一人に光を当て、一人一人が、信仰によって、身近な生活の上に、
 いかに偉大な価値を創造していくか、信仰を実験証明していくか、それが重要なのです」

21世紀をリードする人間主義の展望を明快に示してくださった。
そうかと思えば、話題は、当時のドイツで深刻だった離婚問題にまで及んだ。
「プライバシーに深く立ち入るつもりはありません。
 ただ申し上げておきたいのは、他人の不幸の上に、自分の幸福を築いていく生き方は、
 仏法にはよくないということです。
 ともかく、よく話し合い、子供たちの事を、将来の事を思って、
 できる限り歩み寄っていく努力をお願いしたいのです」

何気もない一つ一つの回答に、深い哲学の裏づけがあった。
温かな慈愛の励ましがあった。
具体的な実践の指針があった。
心ゆくまで先生と語らいを重ねて、メンバーの顔が、5月の晴天のように
晴れ晴れとしてくるのがわかった。
先生は、西ドイツの後、ブルガリア、オーストラリア、イタリア、フランスと、ヨーロッパを回られ、
さらに大西洋を渡ってアメリカとカナダへ向かわれた。
西ドイツは61日間に及ぶ「北半球一周平和旅」の、まだ始まりだった。
「一人の人間を幸せにし得ないような宗教が、どうして世界の平和を実現し得よう」
先生の一言に、観念ではなく、現実の世界において、世界平和を築こうという不抜の意志を感じ、
「我も使命のドイツで」との誓いに胸が熱くなった。(ドイツSGI総合本部長 ヨシハル・マツノ)
 
〜大百蓮華3月号 世界へ征く より〜